みんな知ってる?ファゴット

ファゴットざっくり概要

 ファゴットとはオーケストラや吹奏楽でよく使われる木管の低音楽器です。多くは赤褐色で細長い円錐管のベルが特徴的です。これは長さ約2.4mの管を扱いやすいように折り曲げて作っているのです。ファゴットは4つの部分に分かれており、演奏するときに組み込みます。

 ファゴットはオーボエなどと同じくダブルリード式の楽器です。その音は独特で、”ポー”と温かみのある音から鋭い高音まで実に多彩です。音域としては約3.5オクターブを持ち、さらに低い音の出るコントラファゴットはその1つ下のオクターブを持ちます。

(ファゴットはイタリア語的な呼び方です。英語圏ではバス―ンと呼ばれますが、この記事ではファゴットで統一して書いていきたいと思います。)

ファゴットの前身と楽器としての認知

 ファゴットの前身はドゥルシアンという管楽器です。ソプラノからグレートバスまで様々な音域のものがつくられており、16世紀には低音域のバス・ドゥルシアンが管楽器隊の中でよく使われていたようです。アンサンブルの中でも埋もれない力強さがあり、重宝されていたのです。

 しかしながらこのバス・ドゥルシアンは一本の木に穴をあけて作られており、これが工法的に非常に難しかった。17世紀にこれを解決しようとフランスの楽器職人マルタン・オトテールが1本の木ではなく4つの部品に分けて製作した。これがファゴットの始まりだといわれています。

 ファゴットが登場したのはバロック音楽の最盛期の真っただ中でした。その力強く埋もれないサウンドですぐに通奏低音の楽器として認められることとなりました。

(通奏低音…バロック音楽独自の伴奏。低音旋律と和音を示す数字に基づいて即興的に和音をつけ足して演奏する。)

・ファゴットの改良、ヘッケルシステムとブッフェシステム

 19世紀初頭にドイツのファゴット奏者の傍ら楽器製作もしていたカール・アルメンレーダーがショットという会社を設立してファゴットの開発を始めました。彼はファゴットに関する論文を出し、いくつかのキーを加えて他のキーの配管を変えることで音の調整法が簡単になり、あらゆる調での演奏が容易になると発表するなどファゴットの演奏性の向上に尽力しました。アルメンレーダーはショット社にてヨハン・ヘッケルという若い楽器職人と出会いました。2人はショット社から独立してファゴットの開発を進め、アルメンレーダーが亡くなった後もヘッケルがその後を引き継ぎました。

開発を進めたヘッケルによって、ファゴットにおける革命的な進化ともいえる「ヘッケルシステム」が完成しました。均等な角度をつけて正確な円錐形に仕上げた管、難しい指使いを解消する数々のキー、音孔の位置も変えて演奏しやすくしたというもの。このおかげでヘッケルシステムは現在でもヨーロッパの大半で普及しています。

フランスにはこのライバル的なブッフェシステムがつくられました。既存のキーに少しずつキーを追加したもので高音は出やすいですが鋭い音質を嫌う人も一定数いるためかなり癖のある仕様になっています。

余談ですがヘッケルシステムを開発したヘッケル社は現存します。創業以来楽器店には一切卸しておらず、すべて1対1の注文のみ。納期は短くて1年。そしてお値段は他社の2~4倍。しかしながらヘッケル社のファゴットは注文が絶えません。そんなヘッケル社への1991年のインタビューにおいて当時の社長による自信満々なお言葉を紹介します。

「ヘッケルシステムは確かに当社が考案したシステムですが、パテント料は一切いただいておりません。特許申請も考えたことがありません。なぜならメカニックだけをコピーした楽器とオリジナルは違うに決まっていますから。」

ファゴットと音楽家

 ファゴットの独特な音色は多くの音楽家たちを魅了してきました。特にイタリア人作曲家のアントニオ・ヴィヴァルディはファゴットのための協奏曲を39曲も作っています(現存するのは37曲)。なぜこんなに多く書いたのかは分かっていませんが、相当ファゴットが好きだったのでしょうか……。モーツァルトはファゴットに独自のパートを与えることが多く、ベートーヴェンは後期の交響曲やヴァイオリン交響曲にてファゴットにソロを与えています。また、フンメル、ロセッツィ、ダンツィもそれぞれファゴット協奏曲を書いています。現代の作曲家においてもフランク・ザッパが「ファゴットは好きだよ。中世の香りを感じさせる。」と発言するなどファゴットは多くの音楽家から支持されていることがうかがえますね。

著名な女性のファゴット奏者

小山莉絵

1991年ドイツのシュトゥットガルトで生まれる。ファゴット奏者である父親から9歳の時から手ほどきを受け、2013年にはミュンヘン国産音楽コンクールでファゴット部門において日本人初の最高位を受賞。また、世界でも珍しいファゴット奏者でのソリストです。

圧倒的な技量と表現力を武器に、世界各国のオーケストラで活躍されています。これまでの受賞歴や共演した楽団は数が多すぎるため(凄い…)小山さんのホームページをのぞいてみてください。

・小山莉絵さんホームページ(https://www.rie-koyama.com/about-me/japanese/

2015年の日経電子版のインタビューにおいては「ヨーロッパでは自分の強みや個性を見せられないとナメられる部分もあり、活躍できない」と語る、まさしく世界で戦うファゴット奏者です。

参考文献/Webサイト

・フィリップ・ウィルキンソン『50の名器とアイテムで知る 図説楽器の歴史』、大江聡子訳、2015年、東京:原書房

・マックス・ウェイド=マシューズ『世界の楽器 百科図鑑』、別宮貞徳監訳、2002年、東京:東洋書林

・日経電子版アート&レビュークローズアップ

・「世界で活躍する」方法 気鋭の女性音楽家に学ぶ(https://style.nikkei.com/article/DGXMZO91765830V10C15A9000000/