カルロスゴーンの脱出ポッド?コントラバス

楽器ケースが脱出ポッドに…?

2019年12月30日。全世界のほとんどの人が浮足立っている年の瀬に、とんでもない報道があった。日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン氏がレバノンに極秘出国していたというもの。しかもこの出国に使用されたのは大型の楽器を入れるためのハードケースだった。

この記事ではゴーン氏の罪状については割愛するが、この大胆な行動には大きな反響があった。

報道当初、以下のツイートが拡散された。これが話題となり「ゴーンがコントラバスケースで脱出した」というフレーズを一目見た人も多いのではないだろうか。

出典:Twitter(https://twitter.com/)より

しかしながら、こちらのリツイート元のツイートを翻訳してみよう。

「レバノンの報道機関はカルロス・ゴーンが楽器運搬用の箱に入って日本国外へ密輸されたと報道している。ありえない話だ。」

稚訳で申し訳ないが、それでも残念ながらどこにもコントラバスとは書いていない。実際にはコントラバス入るような、コンテナのような楽器ケースに入って逃亡したと報道されている。

本当にコントラバスケースで脱出していればロマンチックだったのだが……。しかしせっかくなので、謎に脚光を浴びたコントラバスについて少し書いていこうと思う。

コントラバスざっくり紹介

オーケストラはもちろん、吹奏楽、ジャズ、カントリー、ロカビリーなど様々な音楽ジャンルにおける最低音部を担う低音の弦楽器である。

コントラバスは1500年代にヴィオール[1]という楽器の最低音バージョンであるヴィオローネから発達したものである。したがってコントラバスを知らない人に説明するとき、「大きくなったヴァイオリン」と説明する人がいるがこれは正確には違う。

バロックの時代には最長200cmを超えようかという大型のものが使用されたが、現在までに扱いやすい大きさに切り詰められている。現在では3/4サイズ(全長170~200cm)が一般的である。

(ちなみに、ケースも当然それ相応に大きいため身を隠すことは可能である。コントラバス経験者は誰もが一度はソフトケースにくるまったことがあるだろう。)

女性は必然的に背の低い人が多く、手が届かないこともあるためコントラバス専用の椅子に座って弾くことも多い。

コントラバスの音は多彩である。弦楽器の中でも太く力強い音を出すことのできる一方で、ピッツィカート(指弾き)でのリズミカルで繊細な音も出すことができる。

ただ、ネック部分が分厚い、弦が一本一本太い、弦が非常に強い力で張られているため男性奏者と比べて手が小さく、力の弱い女性奏者は慣れるまで苦戦を強いられることも多い。

[1] ヴァイオリンと似ているが、大きな違いとしてネック部にフレットが付いていることがあげられる。また側板が深く、肩はなで肩、背面は平面である。

活躍する女性ベーシスト

大きい楽器ゆえに演奏者がオーケストラでも圧倒的に男性率の高いコントラバスであるが、ここでは独自のセンスで注目を浴びる女性ベーシストに注目したい。

エスペランサ・スポルティング(Esperanza Spalding)

出典:ダンボールの宮殿(https://redpython.hatenablog.com/entry/2019/10/07/210636

アメリカ、ポートランド出身のジャズベーシスト/ヴォーカリスト。最初はチェリストを希望していたらしいが、奨学金が手に入るということでベースに転向したらしい。

思わず身体を揺らしてしまうようなベースラインを奏でながら、甘く伸びやかなヴォーカルもこなす。リズミカルでグルーヴィなベースラインも、歌い上げるようなメロディアスなベースラインをも操る天才肌。というのも、ジャズをはじめとした現代音楽の最高学府といわれるバークリー音楽大学を飛び級で卒業したのちに20歳にして教鞭をとっていたのである。すごすぎる。

2009年にはオスロ・シティホールで開催されたノーベル平和賞授賞式にて元アメリカ合衆国大統領バラク・オバマ氏の名誉を讃える演奏を披露し、翌日のノーベル平和賞コンサートにも出演するなど広く彼女の才能が認められていることがうかがえる。

TOKIE(ときえ)

出典:TOKIE インタビューvol.24LMusic-音楽ニュース- |(https://lmusic.tokyo/news/feature/interview28

東京都出身。中学からコントラバスを始める。高校よりエレキベースに持ち替え、バンド活動を始める。その後プロのベーシストとして布袋寅泰、井上陽水、安室奈美恵のツアーに参加。またSuperfly、雅-Miyavi-,木村カエラのレコーディングに参加している。

彼女の魅力はジャンルに縛られることがなくどんなアーティストにも溶け込んでしまう音楽的センスと華のあるパフォーマンスである。激しいロックから、美しいバラードも器用に弾きこなす。

普段はエレキベースで演奏することが圧倒的に多いが、曲によってはアップライトベース(写真のように、アンプにつないで音を出すタイプのコントラバス)で演奏することもある。ニューヨーク滞在中に友人のライブに行った際そのバンドのベーシストがウッドベースだったことに感化され、アップライトでロックを弾きたいと思ったとインタビューで話している。

まとめ

今回誤報ではあるがゴーン氏のニュースで「コントラバス=人が入れるくらいにはでかい」という認識を改めてさせられたと思う。大きくて取り扱いづらい上に吹奏楽やオーケストラにおいてはそこまで目立たない、そんな楽器をやってみようと思う女性はあまり多くないだろう。

しかしコントラバスにしか出せない深く、艶のある低音を魅力的に感じない人もあまり多くないのも事実である。ぜひ、ジャズなど聴く機会があればコントラバスの音に耳を傾けてほしい。演奏は難しくとも、コントラバスという楽器の魅力を知っていただければ幸いである。

参考文献

・アルフレッド・プラニャウスキー『コントラバスの歴史』田中雅彦、十枝正子、滝井敬子訳、東京:全音楽出版社、1979年

・ルース・ミズリイ編『大図説 世界の楽器』東京:小学館、1978年